LGBT本紹介

職場でトランスジェンダーを受け入れるためにできること

トランスジェンダーと職場環境ハンドブック

LGBTの当事者が左利きやAB型と同じぐらいいることがわかってきて、企業でもLGBTへの対応が求められてきています。

様々なところで企業向けのLGBT研修がおこなわれていますが、LGBTの中でも『トランスジェンダー』への対応に困っている企業多いのではないでしょうか。

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』でもこのように主張しています。

企業とLGBTに関する相談や質問の中でもっとも多いのは、トランスジェンダー従業員への対応に関する問い合わせです。おおくの職場では対応経験がほとんどないため、人事担当者の方はもちろん、現場で直接接する上司や同僚の方々も、手探りで対応している様子が見てとれます。また、申し出をするトランスジェンダーの人々も、どこまで対応を求められるのか、誰にどう申し出ればよいのか、など、お困りであることも耳にします。

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』はじめに より

トランスジェンダーへの配慮が必要だと認識していても、具体的にどんなことに困っているのか、どんな配慮をすれば良いのか。

今回はそんな疑問を解決するために、

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』のうち『第5章 職場での性別移行支援』に着目し、全18項目のうち、職場で対応する機会が多いであろう5項目についてご紹介します。

職場でトランスジェンダーを受け入れるためにできること

希望する名前の取り扱い

トランスジェンダーは、見た目と名前・性別のギャップに苦しめられているケースが少なくありません。

特に、名前に関しては、「○○子」「○○男」のような性別ならではの名前を使いづらいという理由から、「通称名」の使用を申し出る方がいるかもしれません。

その時の対応としては、主に結婚した女性の「旧姓の使用」や主に在日外国人の「ミドルネームや通名」の使用と同様です。

人事情報を管理する上で、戸籍の名前が必要な場合もありますが、戸籍名と通称名を紐づけできれば対応可能ではないでしょうか。

通称名使用を希望する例

  • 名刺・名札・社員証
  • メールアドレス
  • 社員名簿

通称名とまではいかなくても、下記のような、希望する表記にしたいという場合もあります。

本人の希望を聞き、柔軟に対応するようにしましょう。

戸籍上の名前が男性的ではないので、本名のまま生活しています。ただ、漢字には違和感があるので、できる限りひらがな表記にして通しています。

-20代・MtX トランスジェンダー・事務

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』第5章 職場での性別移行支援 より

※MtX:Male to X-genderの頭文字をとったもの。直訳すると「男性からXジェンダー」。Xジェンダーは出生時の性別に違和感があるが、女性か男性どちらかのみの性別を選べない・選びたくないというあり方。

さらに、通称名使用だけでなく、実際に改名手続きをするトランスジェンダーもいます

改名の手続きは本人が行いますが、改名後は、婚姻に伴う改姓と同じように、健康保険や運転免許証などの変更手続きが必要です。

通院・入院への配慮

トランスジェンダーは、自らの望む性別に近づけるために、ホルモン治療などの定期的な通院や、性別適合手術による一時的な入院が伴うことがあります。

勤務時間中に職場を離れたり、1週間以上の長期休暇の取得を希望するかもしれません。

その時の対応としては、糖尿病や透析など、継続的な長期療養が必要な持病への配慮と同様だと考えておくと良いでしょう。

基本的には有給休暇を使用すれば良いですが、場合によっては、半日休や時間休がとりやすいように、勤怠制度や業務体制を見直すことで、よりよい支援体制が構築できます。

特に、時間休制度を取り入れることで、トランスジェンダーだけでなく、育児や介護を担っている従業員の利便性向上にもつながるのではないでしょうか。

業務体制に関しては、こちらのように、当事者と人事担当者・上司などで相談しながら、休暇をとりやすい体制をとっていくことも重要です。

ホルモン投与も性別適合手術も、人事部の方と話し合って進めていきます。職場の上司もそれを知っているのでとても言いやすいです。

-20代・トランスジェンダー・金融

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』第5章 職場での性別移行支援 より

制服などの服装規定

男女別の制服がある場合は、望む性別の制服を着用したいとの申し出があるかもしれません。

ただし、要望通りに対応するだけでは問題解決したとは言えません。

仕事を選ぶときに、なるべく「男女別の制服がない」ということを基準にしています。その中から「自分でもできる仕事」を探すので、職業選択の幅が狭くなってしまいます。

-40代・FtXトランスジェンダー・食材卸売業

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』第5章 職場での性別移行支援 より

※FtX:Female to X-genderの頭文字をとったもの。直訳すると「女性からXジェンダー」。Xジェンダーは出生時の性別に違和感があるが、女性か男性どちらかのみの性別を選べない・選びたくないというあり方。

このように、職業選択の段階から男女別の制服の有無を気にする方もいます。

服装に対しては、トランスジェンダーからの申し出をきっかけに、「制服を着用する必要があるのか」、「制服によって性差を可視化する必要があるのか」など、全体的なルールを見直しをおこなうことを検討されてみてはいかがでしょうか。

トイレ

トランスジェンダーが仕事をする上で、避けては通れないのが、トイレの問題です。

実際に、虹色ダイバーシティと株式会社LIXILが2015年に実施した調査では、トイレに関して困ったり、ストレスを感じるトランスジェンダーは64.9%に上ることが明らかになっています。

※虹色ダイバーシティ:LGBTを含めた誰もが働きやすい職場環境づくりのための研修やコンサルティングを行う特定非営利団体

トイレの問題への対応としては、「誰でも使えるトイレを作ればいいのでは?」と思われるかもしれませんが、そうとは言い切れません。

そもそも、多目的トイレがない職場では、新設することが難しいですし、トランスジェンダー本人が多目的トイレを使用しずらい場合もあります。

性別を問わず使えるトイレが多機能トイレしかないが、自分は身体障碍があるわけではないので、使うことに気がひけるし、車いすの方から怒られたことがある」

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』第5章 職場での性別移行支援 より

そのため、性別を問わずだれでも使えるトイレを新設するというハード面での解決だけではなく、

「自身が使いたいトイレを、使いたいときに使える権利は、トランスジェンダーの人・そうでない人の双方にある」というコンセプトを当たり前のことにする啓発も同時におこなってみてはいかがでしょうか。

更衣室・浴室・シャワールーム

更衣室や浴室、シャワールームでは、人前で着替えたり裸になることから、トランスジェンダーが希望する性別の方を使用できるようにするだけでは問題解決になりません。

アライの人の中にも「自認する性別を受け入れたいが、身体的には異性の状態である人と並んで更衣室を使うことは難しい」と考える人もいます。

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』第5章 職場での性別移行支援 より

※アライ:LGBTの置かれた状況を理解し、その状況を改善するために自分事として行動できる支援者・仲間のこと。英語の同盟者(Alliance)が語源。

では、具体的にどのような対応ができるのか?

更衣室、浴室・シャワールームに関するトランスジェンダーへの配慮事例の一部をご紹介します。

  • 個室の更衣室を設ける(余った会議実などを改装)
  • 男女分けされた更衣室の中にカーテンで仕切られたスペースをいくつか設ける
  • 大きめのトイレの個室に着替え台を設ける
  • 扉付きシャワーブースを設ける
  • 使用する時間帯を分ける

また、更衣室、浴室などの問題も、トランスジェンダーに限った問題ではありません

人前で裸になる・着替えることが嫌だと感じている人もいるものです。

上記のような対応が、手術跡が目立つ方など、トランスジェンダー以外の従業員のニーズも同時に叶えることにもつながります。

今回紹介した本の基本情報

その企業にとって初めての申し出だとしても、従業員の中で困っている人は、声をあげた方だけではないはずです。ぜひこの機会を、職場内における性別の取扱いを見直す機会にしていただければ、と思います。本書では、私たちが見聞きしてきたさまざまな対応事例を具体的にご参照いただけるかたちで収録しています。ぜひ参考にしてください。

『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』はじめに より

トランスジェンダーが快適に仕事ができる環境を整えることは、トランスジェンダー以外の従業員の環境改善にもつながります

今回紹介したのは『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』のごく一部。

本の中では他にも、

  • カミングアウトの受け止め方
  • 人事管理システム
  • 寮・社宅、仮眠室、宿泊行事
  • 健康診断、ストレスチェック
  • お客さま対応

など、様々なニーズとその対応策を紹介しています。

さらに、日本航空株式会社(JAL)や日本電信電話株式会社(NTT)などの具体的な企業の取組みも紹介されているので、実際にどのように対応すればいいかがわかりやすいです。

LGBT・SOGIに対する認知度が高まり、社会全体で多様性を受け入れようとしている今だからこそ、ぜひ読んでおきたい一冊です。

<著者情報>

東 優子:
大阪府立大学教授(性科学・ジェンダー研究)。人文科学で博士号を取得。
早稲田大学卒業。ハワイ大学大学院修了、お茶の水女子大学大学院修了。
共著・訳書に『性同一性障害-ジェンダー・医療・特例法』、『トランスセクシャル、トランスジェンダー、ジェンダーに非同調な人々のためのケア基準(SOC-7)』など多数。

虹色ダイバーシティ:
特定非営利活動法人。2012年設立。2013年NPO法人化。
LGBT等の性的マイノリティもいきいきと働ける職場づくりを目指して、調査・講演活動、コンサルティング事業等を行う。
2015年『Googleインパクトチャレンジ賞』受賞。2016年『日経ソーシャルイニシアチブ大賞 新人賞』受賞。2017年『日本トイレひと大賞』受賞。

ReBit:
特定非営利活動法人。2009年設立。2014年法人化。
LGBTを含めたすべての子どもがありのままの自分で大人になれる社会の実現を目指す。
教育現場での理解普及を目指し、全国の学校・行政などで、生徒・教職員などを対象に4万人以上に向けLGBT研修実施、LGBTに関する教材を多数発行。
LGBTも自分らしく働くことを考えるカンファレンス『RAINBOW CROSSING TOKYO』を開催。

ABOUT ME
deidei
ひっそり埋没しながら暮らしているFTM(女→男に戸籍変更済み)です。 女性として地方で生活→就職のため都会へ→現在は、男性サラリーマン街道邁進中!(7年目) 環境を変えることで、少しずつ、自分らしく生きれるようになりました。 FTMとして生活する中で学んだことや自分自身の経験を、わかりやすく発信していきます。